目次
- 法定福利費は「労務費(手間代)×16.4%」で出せる
- ネットの数字が15%・16%とばらつく理由
- この記事で手に入るもの
- 法定福利費とは何か:会社が負担する社会保険料と労働保険料
- 本人負担分と会社負担分の分かれ方
- なぜ建設業で見積書に別枠で書くよう求められるのか
- 令和8年度の料率を1つずつ:合計16.421%の内訳
- 自社の都道府県の率で組み直す手順
- 自社に当てはまらないケースで率が変わるところ
- 計算方法の手順:手間代を出してから率を掛ける
- どこまでが「労務費(手間代)」に入るか
- 労災保険を入れるか入れないかの判断
- 見積書・請求書への書き方と、そのあとの扱い
- 元請から率を聞かれたときの答え方
- よくあるつまずき
- 見積りのたびに電卓を叩かずに済ませる
- 明日からできること
元請から「見積書に法定福利費を内訳で書いてください」と言われて、手が止まっていませんか。調べると15%と書いてある記事も16%と書いてある記事もあり、どれを使えばいいのか分からなくなります。この記事では、率の中身を保険ごとに分解し、自社の都道府県の率を自分で組み立てる手順まで書きます。読み終えたときには、手元の見積書に1行足すだけの状態になります。
法定福利費は「労務費(手間代)×16.4%」で出せる
下請として見積書に載せる法定福利費は、次の1本の式で出せます。
法定福利費 = 労務費(手間代) × 事業主負担率の合計
令和8年度の全国の目安は、合計 16.421%(約16.4%) です。健康保険料率が都道府県ごとに違うため、会社の所在地によって 16.09%〜16.76% の幅が出ます。
最小の例で確かめます。自社の社員で施工する手間代が20万円の工事なら、次のとおりです。
- 200,000円 × 0.16421 = 32,842円(円未満切り捨て)
見積書には「法定福利費(事業主負担分) 1式 32,842円」と1行書けば足ります。難しい計算はここまでです。
ネットの数字が15%・16%とばらつく理由
同じ「法定福利費」を調べても、記事によって数字が違います。理由はだいたい次の3つです。
| ばらつきの原因 | 何が起きているか |
|---|---|
| 年度が古い | 健康保険料率や介護保険料率は毎年見直されます。数年前の記事の率が残っています |
| 介護保険を入れていない | 40歳以上の社員がいる会社は介護保険がかかります。入れないと約0.8%低く出ます |
| 雇用保険の率が違う | 建設の事業は、一般の事業より会社負担分が高めに設定されています |
この3つを自社の状況に合わせて直せば、率のブレはなくなります。とくに雇用保険は「一般の事業」の率をそのまま使ってしまう例が多く、建設会社では過小になります。
この記事で手に入るもの
このあと、6つの保険の率を1つずつ分解し、足し算で16.421%になることを確かめます。そのうえで、協会けんぽの自社の県の率に入れ替える手順、手間代に入れてよいもの・外すもの、見積書と請求書への書き方まで進みます。
率を一度組み立てておけば、あとは見積りのたびに手間代に掛けるだけです。元請から「御社は何パーセントですか」と電話で聞かれても、その場で根拠つきで答えられるようになります。
法定福利費とは何か:会社が負担する社会保険料と労働保険料
法定福利費とは、法律で加入が決まっている保険のうち、会社(事業主)が負担する分のことです。社員の給与から天引きしている本人負担分は含みません。ここを取り違えると、見積書の金額が半分近く足りなくなります。
対象になるのは次の6つです。
- 健康保険
- 介護保険
- 子ども・子育て支援金
- 厚生年金保険
- 子ども・子育て拠出金
- 雇用保険
社員旅行の費用、作業服の支給、健康診断の費用なども「福利厚生」と呼びますが、こちらは法定外福利費です。法律で義務づけられたものではないため、見積書の法定福利費には入れません。
職人に払う日当や手当は「労務費」です。法定福利費は、その労務費に対して会社が追加で払う保険料にあたります。つまり、労務費が増えれば法定福利費も比例して増えます。

本人負担分と会社負担分の分かれ方
6つの保険は、負担の分かれ方がそれぞれ違います。
- 健康保険・介護保険・子ども・子育て支援金・厚生年金 … 会社と本人で 半分ずつ(折半)
- 子ども・子育て拠出金 … 全額が会社負担。本人からは引きません
- 雇用保険 … 会社と本人で割合が違い、建設の事業は会社負担分が大きい
給与明細の控除額を見て「これが法定福利費だ」と考えると、金額が足りません。控除額は本人負担分だからです。加えて、子ども・子育て拠出金は給与明細に出てきません。会社だけが払っているぶん、見落としやすい項目です。
なぜ建設業で見積書に別枠で書くよう求められるのか
建設業では、社会保険に入っていない会社が残っていることが問題になってきました。その対策として、元請が下請の保険料分を工事費に含めて支払う、という流れが定着しています。下請の側が見積書に法定福利費を内訳で示し、元請がそれを確認して支払う形です。
さらに、改正建設業法(2025年12月施行)により、見積書に材料費・労務費・法定福利費などの内訳を記載することが努力義務になりました。元請から急に内訳を求められるようになったのは、この流れが背景にあります。
大事なのは、法定福利費は値引き交渉の対象にしないという考え方です。社員の保険料そのものなので、ここを削ると会社が保険料を払えなくなります。労務費の考え方や最新の運用は、国土交通省が公開している労務費の基準のポータルで確認できます。
令和8年度の料率を1つずつ:合計16.421%の内訳
16.4%という数字を、保険ごとに分解します。会社負担率の列を縦に足すと16.421%になります。
| 保険の種類 | 全体の率 | 会社負担率 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 健康保険 | 9.87% | 4.936% | 協会けんぽ47都道府県の平均。折半 |
| 介護保険 | 1.62% | 0.81% | 40歳以上65歳未満の社員が対象。折半 |
| 子ども・子育て支援金 | 0.23% | 0.115% | 折半 |
| 厚生年金保険 | 18.3% | 9.15% | 折半 |
| 子ども・子育て拠出金 | 0.36% | 0.36% | 全額が会社負担 |
| 雇用保険 | ― | 1.05% | 建設の事業 10.5/1000 |
足し算で確かめます。
4.936 + 0.81 = 5.746 5.746 + 0.115 = 5.861 5.861 + 9.15 = 15.011 15.011 + 0.36 = 15.371 15.371 + 1.05 = 16.421
料率は毎年3〜4月に見直されます。健康保険料率と介護保険料率は協会けんぽ、雇用保険料率は厚生労働省の公表値で、その年度の数字を確かめてください。
自社の都道府県の率で組み直す手順
全国平均ではなく、自社の県の率で出すほうが正確です。手順は3つだけです。
- 協会けんぽの都道府県別の保険料額表のページで、自社の県の健康保険料率を調べます
- その率を2で割ります(折半なので会社負担分になります)
- 残り5つの合計 11.485% を足します
残り5つの合計は、0.81 + 0.115 + 9.15 + 0.36 + 1.05 = 11.485% です。ここは都道府県で変わらないので、一度覚えれば毎年使えます。
幅の両端を例にすると、新潟県のように健康保険料率が低い県では合計16.09%、佐賀県のように高い県では合計16.76%になります。20万円の手間代なら、16.09%で32,180円、16.76%で33,520円です。差は1,340円ですから、桁を間違えなければ元請とのトラブルにはなりにくい範囲です。それでも、自社の県で出しておけば説明が楽になります。
雇用保険料率は厚生労働省の雇用保険料率のページで、「建設の事業」の欄を見ます。「一般の事業」の行を見てしまう間違いが多いので、行を指でなぞって確かめてください。
出した率は、社内のメモと見積りのひな形の両方に残します。あわせて「4月最初の見積りの前に見直す」と予定を入れておくと、古い率を使い続ける事故を防げます。
自社に当てはまらないケースで率が変わるところ
上の16.421%は、協会けんぽに加入している会社を前提にした数字です。次の場合は組み直しが必要になります。
- 建設国保(建設業国民健康保険組合)に加入している会社 … 健康保険・介護保険の部分が協会けんぽの率とは別の考え方になります。保険料が組合の定額制のことが多く、率では出せません
- 健康保険組合に加入している会社 … 組合ごとの料率と、労使の負担割合(折半でない場合があります)を使います
- 社員が全員40歳未満の会社 … 介護保険がかからないため、0.81%を引いた15.611%になります。介護保険は40歳に到達した月から発生するので、誕生日の管理が必要です
率を変えたときは、見積書の注記に「当社の加入状況による率です」と一言書いておきます。元請の担当者が全国目安と突き合わせて「数字が違う」と連絡してくる手間を、先回りして減らせます。
計算方法の手順:手間代を出してから率を掛ける
計算は3ステップです。
- 自社の社員が施工する労務費(手間代)を拾う
- 自社の率を掛ける
- 円未満を切り捨てて、見積書に1行で書く
手間代の拾い出しが8割で、掛け算は最後の一瞬です。
計算例1:手間代20万円 200,000 × 0.16421 = 32,842円
計算例2:手間代50万円 500,000 × 0.16421 = 82,105円
計算例3:大工手間 1人工22,000円 × 15人工 22,000 × 15 = 330,000円(手間代) 330,000 × 0.16421 = 54,189.3 → 54,189円
ここで1つ注意があります。1人工あたりの単価に先に率を掛ける方法もありますが、端数処理の位置で金額がずれます。上の例なら、22,000 × 0.16421 = 3,612.62 → 3,612円、3,612 × 15 = 54,180円です。合計に掛けた54,189円との差は9円です。額は小さくても、人工数が多い工事ほど差は広がります。合計に率を掛けるやり方に社内で統一しておくと、請求時の照合が合います。
どこまでが「労務費(手間代)」に入るか
判断に迷いやすいところを整理します。
| 項目 | 手間代に入れるか |
|---|---|
| 自社の社員に払う賃金・手当・賞与相当 | 入れる |
| 材料費、機械のリース代、運搬費、現場までの交通費 | 入れない |
| 外注に出す部分の労務費 | 入れない(外注先が自社分を計上します) |
| 一人親方への支払い | 入れない(請負代金であり、自社の社会保険料は発生しません) |
外注分にも率を掛けてしまうと、元請から見て二重計上になります。外注先の見積書にも法定福利費が入っているからです。
困るのは、労務費と材料費が「一式」で混ざっている見積りです。この場合は、まず内訳を材料費と手間代に分けないと率を掛けられません。分け方の手順は見積・請求・原価のカテゴリの記事でも扱っています。
労災保険を入れるか入れないかの判断
労災保険は、現場単位で元請がまとめて加入するのが原則です。そのため、下請の見積書には入れないのが一般的で、この記事の16.421%にも労災保険料率は含めていません。
一方、元請の立場で発注者に見積りを出すときは、労災保険料を別に見る場合があります。また、一人親方の特別加入の保険料は本人が払うもので、下請の法定福利費とは別です。
元請から渡された指定様式に労災の欄があるときは、自己判断で空欄にせず、指示に従って記入してください。欄の有無は元請ごとに違います。
見積書・請求書への書き方と、そのあとの扱い
見積書では、明細の最後に1行足す形が分かりやすくなります。
法定福利費(事業主負担分) 1式 82,105円
(備考)労務費合計 500,000円 × 16.421%
金額だけを書くより、労務費の合計と率を備考に添えたほうが、元請の担当者が電卓を叩いて確認できます。問い合わせの電話が減ります。
消費税の扱いにも注意が必要です。法定福利費は請負代金の一部なので、課税対象です。小計に入れてから消費税を計算します。
- 材料費・労務費などの明細合計 1,200,000円(うち労務費500,000円)
- 法定福利費 82,105円
- 小計(税抜) 1,200,000 + 82,105 = 1,282,105円
- 消費税10% 1,282,105 × 0.1 = 128,210.5 → 128,210円(円未満切り捨て)
- 合計(税込) 1,282,105 + 128,210 = 1,410,315円
請求書は、見積書と同じ内訳・同じ金額でそろえます。工事中に手間が増えて労務費が変わった場合は、法定福利費も計算し直し、変更の理由を一言添えます。金額だけ動かすと、元請の経理で差し戻しになります。
値引きを求められたときは、「この82,105円は、この工事に入る社員の社会保険料の会社負担分です」と、中身を数字で説明できるようにしておきます。感情ではなく内訳で話せると、交渉が短く済みます。
元請から率を聞かれたときの答え方
電話口で即答できると、印象が変わります。答え方はこの形です。
- 協会けんぽの会社 … 「当社は協会けんぽの○○県で、令和8年度の率で合計○○%です」
- 建設国保の会社 … 「健康保険部分は建設国保のため、当社の実際の負担額で計算しています」
大切なのは、率と一緒に根拠の出どころまで伝えることです。「なんとなく16%です」では、元請の担当者が社内で説明できません。
A4用紙1枚に、6つの保険の名前・率・会社負担率・合計を書いたメモを作り、見積りを作る机に貼っておきます。4月に率が変わったら、ひな形とこのメモを同時に直します。片方だけ直すと、次の年に矛盾が出ます。
よくあるつまずき
- 外注費にも率を掛けている … 外注先も自社分を計上するため二重になります。手間代は自社の社員分だけです
- 前年度の率のままひな形を使っている … 4月を過ぎたら、まず率の確認から始めます
- 社員が全員40歳未満(介護保険がかからない)なのに、介護保険を含む全国目安16.4%を使っている … 率の中身を分解しないまま「16.4%」だけ覚えると起きます
- 手間代に材料費が混ざっている … 法定福利費が実態より大きく出ます。元請の査定で指摘されやすい点です
- 消費税を掛け忘れている … 見積書では税抜で書き、小計に入れてから消費税を計算します
見積りのたびに電卓を叩かずに済ませる
ここまでの計算は、工事ごとに毎回やることになります。手間代を拾い、率を掛け、円未満を切り捨て、明細に1行足す。夕方以降に見積りを作っていると、この一手間が地味にこたえます。
SITE BOARD(サイトボード)の積算・見積りの画面には「法定福利費の目安」の欄があり、手間代 × 16.4%(令和8年度の全国の目安、円未満切り捨て)をその場で表示します。設定は要りません。

手間代の集め方は、画面によって違います。
- 積算 … 費目に「労務費」を選んだ行の金額の合計が、そのまま手間代になります
- 見積り … 黄色の欄の「施工費(原価)」× 数量の合計を手間代として使います。「手間代を直接入れる」欄に手間代だけを入れ直すこともできます
見積りの画面では、手間代を入れると目安の金額がすぐ横に出ます。

「法定福利費を明細に追加」を押すと、明細の最後に「法定福利費(事業主負担分)」の行が1式で入ります。見積りでは目安の金額が提出単価として入り、小計・消費税・合計に含まれ、保存すると見積書PDFにも1行として印字されます。金額はあとから直せるので、建設国保や健康保険組合の会社、元請として労災保険料も入れる場合は、追加した行の金額を自社の率で書き換えてください。
使うときのつまずきが2つあります。1つめは、積算から見積りを作ると、追加した行にも利率が乗ることです。目安の金額のまま見積書に載せたいときは、見積り側で追加し直します。2つめは、積算から作った見積りでは、施工費(原価)に外注費や経費の原価も入るため、手間代が多めに出る場合があることです。このときは「手間代を直接入れる」に手間代だけを入れます。
欄の「16.4% の内訳と注意」を開くと、この記事で分解した保険ごとの内訳を画面でそのまま確認できます。元請から率を聞かれたとき、画面を見ながら答えられます。積算から見積りへ進む流れ全体は、こちらの記事で手順を追えます。
積算から見積りを作成する手順|案件登録で拾い出しの二度手間をなくす
拾い出しはエクセル、見積書は別ソフトで二度手間になっていませんか。SITE BOARD(サイトボード)で案件を登録し、積算から見積りを作成して見積書のPDFを出すまでの操作を、画面の順番どおりに説明します。資材費マスタの使い方も。
記事を読む
明日からできること
今日の夕方、10分だけ時間が取れるなら、次の順にやってみてください。
- 自社の率を出す … 協会けんぽのページで自社の県の健康保険料率を調べ、2で割ります。その数字に11.485%を足すと、自社の合計率になります
- メモを1枚作る … 6つの保険の名前・率・会社負担率・合計を書き、日付と「出典:協会けんぽ/厚生労働省」を添えます。見積りを作る場所に置きます
- 次の見積書から1行足す … 「法定福利費(事業主負担分) 1式」を明細の最後に入れ、備考に「労務費合計○○円 × ○○%」と書きます
- 請求書を見積書にそろえる … 内訳も金額も同じにします。労務費が変わったときは両方を直します
- 4月の予定を入れる … 毎年4月、最初の見積りを作る前に、協会けんぽと厚生労働省のページで率を確認する日を決めます
計算そのものは掛け算1回です。負担になりやすいのは、毎回手間代を拾い直し、率を思い出し、行を足す作業のほうです。そこを画面に任せたい場合は、SITE BOARD(サイトボード)の積算・見積りの画面で「法定福利費の目安」を試してみてください。使いはじめは無料で使い始めるから、費用は料金プランで確認できます。
率の根拠を1枚のメモに残し、見積書と請求書の書き方をそろえる。この2つができていれば、元請から法定福利費を聞かれても止まりません。値引き交渉の場でも、数字で話を戻せるようになります。